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2016年10月1日土曜日

生まれました その①〜前駆陣痛、陣痛〜


「子宮口までまだまだ遠いですね。歩いて下さい」
「はい、分かりました」

妊娠10ヶ月目、予定日2週間前。この時期は正産期と言われ、いつ生まれてもOKという時期。
私は妊婦検診に行き、内診といういわゆる膣に手を突っ込まれて子宮までの距離をはかる診察を受け、こう言われた。

この二日前、ディズニーランドで8時間ポケモンを捕まえまくっていたのにまだ足りないのかと驚いた。
うちの子はどうやらもっとお腹の中にいたいみたい。
旦那にその話をしたらじゃあ今週末はワンリキーとディグダの巣を回ろうということになった。

その週末、台風が近づいて天気が不安定な中、私達は昼過ぎにまずワンリキーの巣へと向かった。
そこで4時間粘ってようやくカイリキーに進化するまでにいたると、電車を乗り継いでお次はディグダの巣へ。
更に2時間、ポケモンを追い求めダグドリオにするまで集めるとようやく帰宅。
もう疲れすぎて満身創痍だった。
あの最後のミニリュウ出現ポイントへ歩きまくったのが相当応えたみたい。

お風呂に入り、寝る準備をするとお腹に異変が……
生理痛を2割減した様な痛みが時間を置いて押し寄せて来る。
ちなみに私の生理痛はリンクルアイビーという痛み止めが無いともだえ死ぬレベルのもの。



もしかしてこれが陣痛?と思い、ダウンロードしていた陣痛アプリを起動し計測をする。
でも、まだ痛みが起きる間隔もまばら且つ10分以上だから今病院行っても帰されるだけと思い耐える事に。徐々に徐々に感覚が短くなっていくので朝方、病院へ電話をした。

「あの……陣痛が来ているみたいなんです」
「何分間隔ですか?痛みは耐えられますか?」
「7分から10分です。痛みはまだ耐えられます」
「それですと、前駆陣痛で痛みが遠のく可能性もありますね。痛みの間隔が短くなるもしくは痛みが強くなって来たらまた電話して下さい」
「はい、分かりました」

予想通り、まだ自宅待機か。まあこれも想定内だ。
私は入院セットの中身を確認し、いつ何があっても良い様に準備をした。
夜中は定期的に痛みで起こされて寝不足だったけども、昼間は結構痛みが引き割とぐっすり睡眠を取ったりご飯を食べる事ができた。
体力をつけよと旦那がお弁当を買って来てくれ、それもぺろりと食べられる位。
暇だったので捕獲したポケモンを整理していた。まだ数が足りなくてポッポリレーが出来ない。ちくしょう。
この様子だと1週間くらい痛みがまばらに続くのかなとネットの情報を見ながら絶望的になった。

しかし、その日の夜1時頃またあの痛みが定期的に襲ってきた。
陣痛アプリを起動し経過を観察すると7分、5分、3分、6分と明らかに間の時間が狭くなってる。

深夜3時、痛みも段々強くなって来た。
私は意を決して病院へ電話をする。

「あの、今朝電話をしたものですが陣痛の間隔が5分以内で痛みも強くなってる気がします」
「そうですか……では病院へ来て下さい」

ついにGoが入った。私はとなりでぐーすか寝ている旦那を揺すり起こした。
その日が月曜だけど関係ないしょうがない。

「ん……どうした?」
「陣痛の間隔が短くなってきたの、病院に電話したらきてくださいってさ」
「俺何すれば良い!?」
「とりあえずタクシー呼んで!!」
「分かった。それにしてもなんて迷惑な時間にw」

そう言ってくれるな、パパよ。

私は陣痛が来る度に四つん這いになって痛みを逃しながらタクシーを待ちつつ陣痛の合間に着替えた。
不思議なのは陣痛が来たときは立っていられないくらい辛いのに、痛みの合間はご飯も食べられるしシャワーも平気。もちろん普通に喋れる。
普段の生理痛は断続的に痛みが続くのでまだましだと私は思った。

タクシーの中、旦那と談笑、陣痛で悶え苦しむを繰り返した。
四つん這いになれないから辛い。

病院に着いた。
夜間なので救急入り口みたいなところで名字を名乗ったが何を聞き間違えたのか「そんな人知らないねー」とのんきな声で言われた。
分かりやすく言うと佐藤なのに佐郷と言われるレベルの間違い方をされた。
容赦なく押し寄せる痛みの波。
そんなのどう考えてもニアピンで合ってるんだからどうでも良いから早く病院へ通せ。
こっちは腹が痛いんじゃゴラ。

 この痛み、さすがに子宮口4、5cmは行ってるでしょと期待を込めつつ、中にいるベビーに「打ち合わせ通りするっぽんと生まれるんだよ」と声を掛けNST検査と内診を行う。

「子宮口2cm、痛みもまだまだ弱いから時間かかるかもねー」
え、本陣痛これよりもっと痛いの?耐えられるの?
というか家に帰されない?大丈夫?

「GBSの陽性が出ていて、点滴する必要があるからこのまま入院しましょう」
「ああ、良かった……」
とりあえず帰されずに済んだ。それだけでも良かった。
しかし、面会時間外だから旦那は帰されてしまい病院の中で孤独に痛みとの戦いが始まった。

助産師さんから今の段階でいきんでしまうと赤ちゃんが苦しくなってしまい出てくる時に力が発揮出来ないと痛いのにリラックスせよという無茶ぶりを言われる。
教えてもらった痛みの逃し方は、

・痛みが始まったら花から息をゆっくり吸って口から吐く。
 吐くときの口は口笛を吹く形にする。
・目は絶対につぶってはいけない。つぶると力が入っちゃうらしい
・視点は泳がずに一点を定める。
・拳はにぎらずパーの状態に。指先から痛みが逃げていくイメージを持つ。
・あぐらをかいて両膝を両手で下に押す。子宮口を開くイメージ。
 ※イメージ。男性の画像しか無くすみません;

それにしてもお腹が空いた……
時刻は早朝の8時手前。
夜ご飯を前日の20時に食べたきりなのでお腹の虫がぐーぐー鳴っている。
病院の朝食は8時なので、旦那に貰ったプリッツを食べるのも時間的に微妙だな。
そんな事を思っていると看護師さんが病室に入って来た。

「また痛みの度合いを見るのでNST検査を行います。陣痛室へ来て下さい」
「え、あ……はい……」

あれ、朝食は?私はその言葉を飲んで素直に看護師に従った。
入った部屋は和室。
そこでお腹にペタペタ器具をつけられ、赤ちゃんの心音をはかりながら陣痛との仁義なき戦いをする。
助産師さんが入ってくる度に陣痛逃しの指導をしてくれるだがそれよりも飯をくれマジで。

お預け状態、放置状態で気付いたら10時に。
ようやく部屋に戻され朝飯が運ばれて来る。
食パン、スープ、副菜、牛乳とよくある病院食なのだが空腹という最高のスパイスも兼ね揃い素晴らしいご馳走に感じた。

その後また放置され陣痛との戦いを行っていると痛みに変化が現れ始めた。
生理痛の2割減から生理痛並に。更に吐き気も加わる。
そして時刻は昼の12時。
時間きっかりにお昼ご飯がきた。
さっき10時に朝ご飯食べたし陣痛で気持ち悪く多分食べたら吐くなと思い一切手を付けられなかった。

助産師さんがやって来て一切手を付けていないところを見て一旦下げてくれた。
何度も上に書いた陣痛の逃し方を根絶丁寧に教えてくれるのだが私は痛みで意識が朦朧としながら聞いていた。

再び陣痛室に連れて行かれる。
時刻は昼の12時。

「あの……旦那をいつ呼べば良いでしょうか?いつ生まれますか?」

赤ちゃん次第なので愚問と思いつつ私は助産師さんに聞いた。

「うーん、何とも言えないね。でも、辛い陣痛を一緒過ごすのも立会い出産の醍醐味だよ」

私は短い陣痛の合間を塗って旦那にLINEをした。

"来れそうだったら来て欲しい"
"分かった"

台風が丁度近づき、陣痛室の窓には雨風が打ち付けられる音が響いた。



つづく


茶木